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釧路地方裁判所 昭和45年(ワ)290号 判決

原告 片山金一

右訴訟代理人弁護士 福岡定吉

同 組村真平

被告 北海道

右代表者知事 堂垣内尚弘

右訴訟代理人弁護士 山根喬

右指定代理人 志田省三

〈ほか四名〉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

請求の趣旨

一、被告は原告が北海道川上郡弟子屈町所在の摩周第一展望所第一駐車場内の別紙図面斜線の部分において自動車により飲食店の営業をすることを妨害してはならない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

請求の原因

一、原告は北海道釧路保健所長に対し、昭和四二年八月二一日付けをもって、営業場所を摩周湖第一展望所第一駐車場(以下本件駐車場という。)を含む地域として自動車による飲食店営業の許可申請をなし、同保健所長は食品衛生法に基づき昭和四二年八月二六日付け釧保第二四五四号指令をもって有効期限を昭和四四年八月二六日と定めてこれを許可し、右許可は、昭和四四年七月一八日付け営業許可更新申請により昭和四四年八月二五日付け釧保第二六九五号指令をもって有効期限を昭和四六年八月二六日までと定めて更新され、更に、昭和四六年八月二四日付の営業許可申請に対し、昭和四六年九月六日付釧保第三七一六号指令をもって有効期限を昭和四八年八月二六日まで、営業場所を本件駐車場を含む地域と定めて許可がなされた。

二、原告は最初の許可を受けた頃から本件駐車場内の別紙図面斜線の部分(以下本件駐車場部分という。)においてバスを改造した自動車により「食堂ジプシー」の名称の下に飲食業を営んで来たところ、被告は次の如く、原告の営業を妨害したので、昭和四五年九月二二日以降右場所で営業することができなくなった。

1、昭和四三年七月頃、北海道標茶保健所係員が二、三日置きに原告の自動車に立入検査を行い、その中に蠅がいる、埃がある、食器が汚れている等と針小棒大に述べて、いやがらせをした。

その頃弟子屈警察署の制服警察官はバスが到着して客が原告の食堂車に集まると、違反車だから客に立入らないよう注意し、四方八方から写真撮影するという形で妨害をした。

2、昭和四四年六、七月頃、同保健所員、警察官から上記の如き態様で数度いやがらせがあった。

3、昭和四五年六月初旬、警察官、保健所員、弟子屈町吏員、被告の釧路支庁係員等約四五名が原告の自動車を取囲み、口々に「違反だから止めて帰れ。」、「検挙してしまえ。」、「検挙して自動車を没収すれば商売が出来なくなるのだから一番よい。」等と暴言を吐いた。

4、被告の釧路支庁は、同年六月中旬、本件駐車場に、「物品の販売その他営業を行うため立ち入ることを禁止する。」旨の制札を設けた。

5、同年六月下旬、警察官および前記保健所員他一四、五名が来て、原告に対し、「違反だから止めて帰れ。」と強制した。

6、同年七月には二日置きに警察官が来て、「違反だから止めろ。」、「仏の顔も三度だ。」、「一度署に来い、わかるようにしてやる。」等と暴言を吐き、更に1と同様な態様で写真撮影を行なった。

7、同年七月末から九月にかけて、被告の釧路支庁から原告に対し営業禁止の警告書や指示書が手交された。

8、同年九月二一日午後、道警釧路、北見方面本部、弟子屈警察署は、原告等業者を排除するため一斉手入れを行った。もっとも、原告は午前中で商品を全部売り切ったため午後から現場に居合わせず難を免れた。

9、昭和四五年一一月一二日に川上郡弟子屈町に所在する東岳荘において被告の釧路支庁、同網走支庁、道警釧路方面本部、弟子屈警察署、釧路警察署、美幌警察署、弟子屈営林署、弟子屈町、美幌町、阿寒町等の関係者が参集し、昭和四六年度も阿寒国立公園内の露店商等の取締りを徹底させることを申合わせた。

三、よって、原告は、営業権に基づき、被告に対し被告が原告の前記自動車による本件駐車場部分における飲食店営業を妨害することの排除を求める。

請求の原因に対する認否

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、請求原因第二項冒頭記載の事実のうち、原告が原告主張の如く営業をしたことは認める。

1、同項1の事実は否認する。

なお、北海道標茶保健所の職員が、昭和四三年の、五月一九日、六月一日、六月一二日から一四日まで、七月九日、七月一〇日、七月一一日および八月二六日から二八日までの七回にわたり食品衛生法に基づく監視または指導のため、本件第一展望所に出張し、五月一九日の出張の際に弟子屈警察署の警察官と同行したほか、警察官と同行したことが一、二回ある。

2、同項2の事実は否認する。

なお、北海道標茶保健所の職員が、昭和四四年において、六月二二日、六月二四日、七月二日から四日まで、七月一六日から一八日まで、八月二日から三日まで、八月二〇日、八月二五日から二七日まで、九月二九日、一〇月三一日および一一月一二日の一〇回にわたり食品衛生法に基づく監視または指導のため本件第一展望所に出張し、六月二四日の出張の際に弟子屈警察署の警察官と同行したことはある。

3、同項3ないし8の事実については、被告釧路支庁職員等が、昭和四五年六月五日から九月二一日までの間において別紙一のとおり本件第一展望所等に出張し、口頭をもってまたは警告書もしくは指示書を手交して原告を含む物品販売業者および写真屋に対して本件第一展望所から直ちに立ち退くことを求めたこと、その際営業の現況を把握するため写真を撮影したことならびに同年六月一三日に「物品の販売その他営業等を行なうため立ち入ること」等五項目にわたる禁止事項を記載した制札を設置したことはあるが、その余の事実は否認する。

4、同9の事実については、原告主張の会議が行われ、昭和四五年度実施した取締り結果の検討および昭和四六年度の取締り対策につき打合わせを行ったことは認め、その余は争う。

抗弁

一、阿寒国立公園および摩周特別地域について

本件場所を含む摩周第一展望所は、阿寒国立公園の公園計画に基づく摩周特別地域内に所在する園地である。

1、国立公園とは、わが国のすぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進をはかり、もって国民の保健、休養および教化に資する地域であり(自然公園法―以下法という―第一条参照)、また、特別地域とは、右国立公園の指定の趣旨にかんがみ、景観のすぐれた地域、自然状態を保護する地域、公園利用上重要な地域、特色のある人文景観を有する地域について風致の維持または育成を図る地域であって、自然公園の保護の根幹をなすものであるから、これに支障を及ぼすおそれのある行為を禁止し、または制限する地域である。(法第一七条第一項および第三項参照)

2、阿寒国立公園は、法附則第二項の規定により廃止された国立公園法(昭和六年法律第三六号)第一条の規定に基づき昭和九年一二月四日内務省告示第五七六号をもって日光(同日内務省告示第五六九号)、阿蘇(同日内務省告示第五七一号)等とともに指定されたもので、わが国の国立公園制度発足当初からの由緒ある国立公園であり、また、摩周特別地域は、昭和一三年五月一三日厚生省告示第六八号をもって屈斜路特別地域、阿寒特別地域等とともに同公園の風致を維持するために指定された地域で、そのすぐれた自然の風景の保護には特に留意しなければならない地域である。

二、摩周第一展望台園地事業について

本件第一展望所は、阿寒国立公園の公園計画に基づく公園事業の執行のため、被告が国から借り受けた土地に設置し、かつ、管理している園地である。

1、公園計画は、個々の国立公園または国定公園について、それぞれの特殊性に応じて、いかにして風景の保護を図り、その公園としての素質を保全するか、また、国民の野外レクリエーションの場としてどのようにそれを利用させるかについて定める計画であって、当該国立公園または国定公園の管理、運営、施設整備の基本をなすものである。(法第二条第五号参照)

自然公園がすぐれた自然の風景地について指定されるものである以上、その実体的要件である自然風景の保全を図ることが計画上一つの重要な問題となる。特に、地域的な公用制限を行なうことによって、風景に支障を及ぼすような行為を規制し、恒久的に自然公園としての景観を確保することをたえまえとしている法においては、保護に関する計画は、公園計画の内容としてきわめて重要な位置を占めるものである。すなわち、その公園のいかなる地域をいかなる方法で保護を図るかという規制の計画と、それに対応して、どこに、いかなる種類のいかなる規模の保護施設を設けるかを定める施設の計画である。また、一方において、自然公園が公園である以上、当然に公衆の休養的利用のための有効適切な方途が講じられなければならないので、その規範となる利用に関する規制および施設の計画もまた必要である。すなわち、その公園をいかなる方法でいかなる類の利用者をいかなる時期に利用させるかという規制の計画とそれに対応して、どこに、いかなる種類、いかなる規模の利用施設を設けるかを定める施設の計画である。

2、公園事業は、公園計画に基づいて執行する事業であって、国立公園または国定公園の保護または利用のための施設で政令で定める施設(自然公園法施行令(昭和三二年政令第二九八号)第四条参照)に関するものである(法第二条第六号参照)。したがって、ここにいう公園計画は、前記1記載の公園計画のうちの保護のための施設に関する計画および利用のための施設に関する計画を意味するものである。公園事業は、これらの計画を実現し、法の目的を達成するためのもので、公園計画に定められた保護または利用のための施設で、公園事業の決定という手続きを経て公示され(法第一二条参照)、具体的な実施計画と実施者が定められた後公園事業の執行として現実に施設が設けられ、公園目的に副うよう管理運営されるものである。(法第一四条ないし第一六条参照)

3、本件第一展望所は、昭和二九年八月三日厚生省告示第二一七号をもって公示された阿寒国立公園計画による単独施設で、昭和三三年一一月一〇日厚生省告示第三三三号をもって摩周第一展望台園地事業の名称のもとに公園事業としての決定が公示され、同年同月二二日北園第一二三九号をもって厚生大臣の承認を受けて被告が設置し、かつ、管理している園地である。

本件第一展望所の設置および管理のため、被告は、国有林野の一部九、六〇六平方メートルを借り受け、当該土地について昭和三三年度から昭和四五年度までの間に、一二二〇万円の費用を投じて展望台、公衆便所、駐車場、歩道等の施設を整備するとともに、駐車場がすでに狭隘となっている現況にかんがみ、その拡張工事に着手し、昭和四六年度および昭和四七年度において一四五〇万円の費用をもって右駐車場の整備完了を計画している。

三、物品販売業者等の排除について

1、本件第一展望所は、以上のような慎重な手続によって設置し、しかも莫大な費用を投じて整備している園地であるが、このような施設を設置することは、自然の風景に対してなんらかの損傷をあたえることが必至であり、公園の本質たるすぐれた自然風景を保護しようとする意図とは多かれ少なかれ矛盾する要素をもつものである。従って、駐車場の設置、整備にしても、公衆便所の設置にしても、細心の注意を払って摩周湖のすぐれた風景に対応し得る園地たるにふさわしいよう設計しているのであるから、その管理運営にあたっては、法の趣旨にのっとり、当該施設の設置目的に副っていささかの手落ちもあってはならないのである。ちなみに、被告が本件第一展望所内に設置した展望台も以上のような配慮のもとに半地下式とし、また、本件第一展望所内に弟子屈町が設置したレストハウスは、完全に地下式としているのである。

2、以上のような配慮のもとに設置され、かつ、管理運営されている本件第一展望所であるから、その設置管理の目的にかんがみ、ある種の行為を自然公園にふさわしくないものとして禁止することがあり得ることは当然である。本件第一展望所内において物を販売したりするのもその一つというべく、もしこれをなんら制約しないで自然のままに放置すれば、多数業者が集まり、争って客を呼んだり、客に押しつけがましい行為をしたりすることも絶無ではあり得ないし、また、それほどのことが起らなくても、自然公園をその本来の目的に従って利用しようとする人にとり物品販売を目的とする者がむやみに入りこむことは不快な感じを伴うことを免れず、そのこと自体、公園としての品位を害するし、公園としての使命を達するのに遺憾なことといわなければならない。(昭和三二年一二月九日東京高裁判決高裁刑特第四巻二四号六六三頁参照)

3、しかるに、昭和四五年六月五日から同年九月二一日までの間において一〇回にわたって被告が現場で確認した事実だけについても、原告を含む物品販売業者および写真屋が本件第一展望所の一部を占拠し、多い日はその数が一六人にも達しているのであり、しかも、その占拠の場所は、眺望上最も重要な場所である歩道上の湖面側である。もっとも、原告の占拠する場所は、歩道上ではなく駐車場であるが、これとしても物品の販売等のための立入等を禁止するため設置した制札のすぐ前を占拠しての食品販売である。もしこれをなんら制約しないで自然のままに放置すれば、自然公園をその本来の目的に従って利用しようとする人にとり、不快な感じを伴うことは免れ得ないところである。

4、本件第一展望所を設置し、その管理運営にあたる被告は、その由緒ある沿革を重んじ、自然の造型的美観を損じないよう配慮するとともに、利用者の立場を十分考慮し、自然公園本来の目的に副うよう利用者を満足させ、自然公園としての使命を達成せんがためにこれら物品販売業者等の排除を求めるものである。

このため、被告は、昭和四〇年八月六日四〇林第一七五三号林務部長通達により、各支庁長に対して「許可なく物品の販売その他の営業行為を行なうため立入らないこと。」等四項目にわたる禁止事項を記載した制札を設置し、被告が占有権を有し、管理する公園区域について不法侵入等制札記載事項に違反する者があれば地元警察署と連絡のうえ取り締るべき旨を命じ、本件第一展望所の最初の制札も右通達に基づき同年八月中に設置したものである。その後、昭和四五年六月一三日に「物品の販売その他営業等を行なうため立入ること。」等五項目の禁止事項を記載した制札を設置し、本件第一展望所の管理者として右施設の設置目的に反した利用を禁止する旨の意思を再度せん明したものである。

四、物品販売業者等排除の法律上の根拠について

1、借地権、地上権等に基づいて使用収益し得る特別の事情のない限り、他人の土地を自由に利用する権利は、現行法上一般的には認められないのであるから、原告の請求は、そもそも理解に苦しむところであるが、本件第一展望所を例えば道路のように一般交通の用に供する土地と同様に公共用地と解釈するとしても、当該公共用の目的の範囲をこえて自由に利用する権利は認められないのである。

本件第一展望所は、阿寒国立公園中でも特にすぐれた自然の造型的美観を有する摩周湖を展望するための施設であり、そのための駐車場である。そして、右施設は、自然公園本来の目的に副うべく利用者を満足させ、不快な感じを伴わないよう管理運営すべき施設である。したがって、駐車に藉口し、右施設の管理者たる被告の意思に反して駐車場を食品販売のために利用し得る権利は認められないのであるから、被告が原告に対して右駐車場からの立退きを求めたのは、原告が右施設の設置目的の範囲をこえて自由に利用する権利のないことを確認させるとともに、被告の占有権の妨害を排除したものである。

2、また、本件第一展望所の設置目的の範囲をこえ、かつ、右施設の管理者たる被告の意思に反して駐車場を食品販売のために利用する行為は、外形上駐車の観を呈していても駐車場としての利用とは認められず、したがって、右行為は、なんらの権原もなしに「展望所、休憩所等をほしいままに占拠」する行為であて、法第二四条第一項第二号に該当する。

抗弁に対する認否

抗弁第四項1、2の主張は争う。

一、原告の営業は、法第二四条第一項第二号に該当しない。

右条文は公園利用者に著しい迷惑をかける行為を禁止し、その行為の例示として展望所、休憩所等をほしいままに占拠することを挙げているのである。そして、展望所、休憩所等と列挙した法の趣旨からすれば、「展望所、休憩所等」とは、園地内のこれらと同視すべき建造物その他の施設を指すものと解すべきであるところ、本件駐車場は園地外にあり「園地は柵をもって囲まれ、被告も立札に園地内および駐車場云々と表示し区別している。)この「展望所、休憩所等」に含めるべきではない。

更に、この条文は展望所を占拠して他人の観望を妨げたり、休憩所を占拠して他人の利用を阻んだりして観光客の迷惑になることを防止する趣旨であるところ、原告はこれら観光客に迷惑をかけたことがなく、また公園の風致に何ら害を与えることもなく、かえって観光客に喜ばれながら駐車場の一隅で営業していたものであり、法の趣旨に反するところは全くない。

二、原告は観光客らに喜ばれる存在であった。すなわち、原告は、本件地区に水がないため、常時水を車に用意して観光客に飲み水を無料で飲ませ、或いは車がオーバーヒートした場合や車修理の後運転手が手を洗う場合に水を無料で提供していたし、早朝に駐車場付近を清掃したり、自費で塩酸を購入して、汚れるにまかせていた公園の公衆便所を掃除したりして、公園の美観維持に努め、また、北海道の味覚、ラーメン、ソバ、ジャガイモ等を廉価に提供し、観光客の旅情を慰めていた。観光客がいかに原告に対し親近感を抱き、喜んでいたかは、「食堂ジプシー落書メモ帳」の膨大な記載が物語るところである。

このように、原告の営業は摩周湖の一つの風物詩として珍重され、公園の風致を増強こそすれ阻害するものではなかったのである。

三、昭和四三年五月展望所下にレストハウスが建設され、現在地元の観光業者が入居し民芸品、装飾品、その他の土産品、食料品等を販売している。ところが、入居に際し多額の権利金を支払ったせいか、または独占経営の故か、販売価格が非常に高く、市価の約三倍程度であり、例えば、焼イカ一匹一八〇円、小さなトウキビ一本一〇〇円で販売し、観光客の不評を買っている。かつて、水一杯一〇円で売ったこともあり、原告の営業が目の上のこぶであった。

原告が観光客が便所の手洗水を飲んでいるのを見かねて食堂車で水を提供する旨右便所に貼り紙をしたところ、営業妨害だとその貼り紙は直ちにはがされてしまった。従って、観光協会が警察を動かし、被告の釧路支庁を動かし原告の排除を策したふしがある。

レストハウスは今、休憩所ではなく営業店舗である。法が予定する休憩所は観光業者が殆んど全部を、ほしいままに占拠し、休憩所ではなくなっている。しかしながら、被告はこれら業者には何ら規制を加えず、展望所でも休憩所でもそれらと類似する所でもない駐車場で営業する原告を排除しようとすることは不平等な行政権の行使でありそこには何らかの意図がうかがわれる。

暴利をむさぼり観光客に迷惑をかけている業者を合法だと野放しにし、かえって観光客に喜ばれている無力な原告を締めだすという跛行的な行政権の行使は行政権の濫用であり、原告の営業を妨害することは許されない。

四、原告の営業権は、憲法上の自由権である。憲法第二二条は公共の福祉に反しない限り職業選択の自由があることを明記しているが、営業の自由もこの内容をなすものと解されている。従って、被告は公共の福祉に反しない限り原告の権利の享有を妨げてはならず、立法その他国政の上で最大の尊重を払わなければならない。そして、原告の営業は既述のとおり法律にも違反せず、公序良俗をも害することもなく、何ら公共の福祉に反するものではなかったのであるから、被告に妨害されるいわれはない。

証拠≪省略≫

理由

一、請求原因第一項の事実および原告がその主張の如く本件駐車場部分において飲食業を営んだことは当事者間に争いがなく、また、被告が原告の右営業を妨げ、かつ今後も妨げる方針であることも、その行為の具体的な内容の詳細はさておき、当事者間に争いがないところである。

二、原告主張の営業権は民法第七一〇条に定められた自由に該当し、かつ、本件駐車場部分が法第一七条にいう国立公園の特別地域(昭和一三年五月一三日厚生省告示第六八号、法附則第五項参照)内に存在することは検証の結果から明らかであるところ、国立公園の特別地域内で営業自体を直接禁止する法規はないから、原告は、営業権に基づき、自己の営業に対する違法な妨害行為の排除を求めることができる。(最高裁判決昭和三九年一月一六日民集一八巻一号一頁参照)

三、そこで、被告の抗弁について検討する。

1、法第二四条第一項第二号中の「展望所、休憩所等をほしいままに占拠」する行為とは、法の立法趣旨、性格および同条の文言により、国立公園に来遊する一般の利用者のために作られた一切の施設を、その本来の目的以外の目的で、管理者の承諾を得ることなく、相当な時間にわたり占有する行為であり、その行為が具体的、個別的に国立公園の利用者に著しく迷惑をかけるか否かを問わない趣旨と解するのが相当である。換言すれば、展望所、休憩所等の施設をほしいままに占拠する行為は、利用者に著しく迷惑をかける行為の類型として右法条に定められているのであり、右行為は、即、抽象的、一般的に利用者に著しく迷惑をかける行為なのである。

2、原告の営業していた本件駐車場部分が国立公園の一般利用者の普通乗用車の駐車のための施設であること、原告の食堂用自動車はバスを改造した大型自動車であるためその車体が一台分の駐車範囲内に入りきらないばかりか、その側面の窓口における飲食物の販売のため、隣の駐車区域まで利用せざるを得ないこと、原告がその営業のため右自動車を駐車させたのは観光シーズン中雨天の日を除き殆んど毎日で、時間は朝五時頃から午后三時頃までであったこと、摩周湖第一展望所附近には本件第一駐車場以外に駐車場がなく、右駐車場は普通自動車約七〇台、大型自動車約二〇台の収容能力があるところ、最盛期には普通自動車約二〇〇台、大型自動車約四〇台が集まることもあり、原告が営業をしていた当時既に右駐車場は狭隘となっていたことが、≪証拠省略≫により認めることができる。

右各事実によれば、原告の本件駐車場部分における営業は、法第二四条第一項第二号中の前記部分に該当する行為と認めざるを得ない。なお、≪証拠省略≫によれば、原告は良心的な業者で、その利用者には喜ばれていたこと、自己の営利と関係なく、飲料水のない摩周湖第一展望所附近において飲料水や手洗水を観光客等に無料で提供し、自費で塩酸を購入し、当時汚れるにまかされていた摩周湖第一展望所の公衆便所を清掃していたことを認めることができるが、これらの事実も右認定を妨げないことは、前記法条の趣旨から明らかである。

従って、被告の抗弁は理由がある。

四、よって、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野孝久)

〈以下省略〉

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